厳選特集

秋田名物 きりたんぽ



「どうだ!」といわんばかりに見せつけるような華やかな料理ではない。
あくまで素朴で、飾り気もない。
それでいて鍋を囲む人たちの心をじんわりと暖かくしてくれる。
これは、秋田の県民性をそのまま凝縮した鍋料理といえるかもしれない。

秋田の郷土料理の代表格といえば、やはり「きりたんぽ鍋」だろう。ただ単に「たんぽ」といえば、ご飯を串に巻き付けて焼き上げたものを指す。この細長い形が稽古用の槍「短穂槍」に似ており、2つや3つに切って食べたことから「きりたんぽ」と名付けられたともいわれている。焼きたては香ばしく、そのまま食べてもおいしいし、味噌を塗り付けて焼き上げたものは「味噌焼きたんぽ」とも呼ばれ、そのファンも多い。しかしやはり一般的なのは鍋料理にしていただく「きりたんぽ鍋」だ。


沸騰しただし汁に
鶏肉とササガキゴボウを入れ、
アクをとる。
その後、煮えにくいものから入れ、
最後にきりたんぽを入れる。
セリを加え、色の失せないうちに
取り分けていただく。

下から右に比内地鶏の肉と内臓、
イトコンニャク、マイタケ、
ササガキゴボウ、セリ、
きりたんぽ

きりたんぽは
煮崩れる前にいただく。

 今や郷土料理店や土産物店で1年中お目にかかることのできる「きりたんぽ鍋」や「きりたんぽ」だが、地元の人間にいわせれば、やはり旬は秋から冬にかけてということになる。使用するほとんどの食材が旬を迎えるからだ。
大館市や鹿角市など秋田県の北部地方が発祥の地といわれ、かつては主に同地方で食べられていた「きりたんぽ鍋」だが、ここ30年ほどで県内全域に広がり、どこでも気軽に食べられるようになった。
その理由はというと、まず食材が県内全域どこででも簡単に手に入ること。包丁さばきや味付けなどの難しさはなく、誰でも気軽に料理できること。さらに1つの鍋で、肉、野菜、きのこ、ご飯(きりたんぽ)などを味わうことができるので、その気になれば他の料理の準備は不要。つまり「『きりたんぽ鍋』さえ作っておけば、食事はなんとかなる」という発想。おいしさに加え、この簡単、手軽さもいいのである。
各家庭でも手軽に作れるということは、その味も家庭によってさまざま。もちろん料亭や料理屋でも、その店独特の味を競っている。こうなると、味の差は使用する食材の差といっても過言ではない。それだけに名人を自認する人は、食材の入手先にこだわる。
まずはメインのきりたんぽだ。お米を原料とする「きりたんぽ」は、やはり香りがよくて粘り気のある新米がよろしい。古米でも作れないことはないが、米の味にうるさい秋田県人は独特の新米の香りにこだわる。最近はガスや電気で焼くのが主流になりつつあるが、あくまでも炭火焼きにこだわる人もいる。
さらに、料亭やきりたんぽ製造業者は米の品種にもこだわる。多少粘り気のある「あきたこまち」が最適だと主張する業者。いや、本荘、象潟など、由利地方の「ささにしき」が一番だとほれ込んでいる業者。中には、わざわざきりたんぽ用に各品種をブレンドして使う業者もいるほどだ。
次に重要なのは、だしの決め手となる鶏である。もちろん安く手にはいるブロイラーでも使えないことはないが、秋田県民は野生種の面影を色濃く残している、秋田特産の比内地鶏にこだわる。その肉は上品な味としっかりした歯ごたえで、そのガラでとるだしは絶妙な味わい。鍋全体の味を大きく左右するからだ。
あとはネギ、ササガキゴボウ、キノコ、セリがあれば十分。地域や家庭によっては「キノコはマイタケが一番いい」という地域もあるし、いや「キンタケ(キシメジ)の方がいいだしがでる」という家庭もある。イトコンニャク、油揚げ、薄味を付けた里芋、焼き豆腐をいれるところもあるし、これといった厳格なレシピはない。とにかく大勢で楽しく、おいしくいただければいいのである。
秋から冬。「きりたんぽ鍋」を前にして、大の大人が口角泡をとばして地域や我が家のきりたんぽ鍋自慢をする光景をあちこちで見かけることがある。これぞ秋田県民が「きりたんぽ鍋」を愛し、味や作り方にこだわっている証。やはり秋田の代表的な郷土料理である。

作り方


1. ご飯を炊き上げ、
すり鉢に移して杵で丹念に突いて
半殺しにする


2. 120g前後のご飯を丸め、
杉の串に突き刺す。


3. 串の下の方に向かって
ご飯をしごき下ろすように伸ばす。

 


4. ご飯に手がくっつかないように
手に水をつけながら、
おおまかに形を整える。


5. まな板の上で転がして
形を整える。


6. これを炭火でこんがりと焼き上げると、
100g前後のきりたんぽの出来上がり。

協力/
北秋くらぶ 大館市幸町15-6 TEL0186-42-2033
JR奥羽本線・大館駅より車で約10分。東北自動車道・十和田ICより車で約30分。